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2008/03/03

[書評] 速水 健朗 / 『自分探しが止まらない』

自分探しが止まらない (ソフトバンク新書 64) 速水 健朗 / 『自分探しが止まらない』 / 2008-02-16 / ソフトバンク新書 / B-

はじめに

毒入り危険

なせ、帯にこう書いておいてくれなかったんだろう。
読んで激しく後悔した。そして、タイトルに心当たりのある人は、絶対に解毒剤なしには読まないこと! を忠告したい。

かわりに帯に書いてあるのはこういう言葉だ。
こんな若者はには、もううんざり
この言葉は本書の内容を正しく伝えていないし、本当に本書を必要としている人たちを遠ざける逆効果しかない。これは致命的。

帯の言葉がおかしいのは編集の責任だけど、著者にも文句を言いたい。
本書の「あとがき」を最初に持ってくるべき。
本書を手に取る皆さんにはお伝えしたい。本書は「あとがき」から読むべき、と。
そして、最初に解毒剤を読んでから本書を読むべきと(これは後で書きます)。

分析としては素晴らしいけど

肝心の中身は、というと、診断は A だけど治療は E、全体として B- といった感じ。

本書は、「自分探し」を批判的に、しかし、その原因を個人の心の弱さだけに求めるのではなく、先進国の若者に共通の、構造的な問題であるという観点から描いています。

後半の「構造的な問題」というところは、よくできています。
いま、「自分探しにはまっている若者」が非難されているけど、やっていることはその前の世代と同じだと古今東西からの豊富な事例を紹介したり、さらに思想史的にたどることで「こういう発想は自己啓発セミナー、ナポレオン・ヒルの成功報告、カルト系の宗教、ニューエイジ、学生紛争、ヒッピー、セカイ系のアニメ、さらにはGTKから梅田望夫まで、全部根っこは一緒だと指摘しています。

自己啓発セミナーにはまる人を笑う人、自分探しは卒業したぜと見下している人、梅田望夫もGTKも同じだと言われたらぎょっとしませんか?
著者が言うには、そこに一貫して流れているのは「ポジティブシンキング」。

だけど、そして最後に著者自身も歯切れ悪く認めざるを得ないのですが、自分探しを抜け出す唯一の方法もまた、ポジティブシンキングにしかないのです。 「前向きにね」これが著者の処方箋。あまりにも弱い。その分析の鋭さと比較すると特に腰砕け。

著者は、構造的な問題であることを指摘しつつも、そこから抜け出せない人をやはり非難します。 矛盾した、具体性のない処方箋とともに。
これは結構きつい。

解毒剤

著者と年代的に近く、そして最近やっと自分探しの罠から抜け出せたと思っていた私にとっては、かさぶたを無理矢理はがされるような痛みを伴う読書でした。

もし今まさに自分探しの罠から抜け出そうともがいている人がいたら、この本に飛びついてはいけません。まず解毒剤を飲んでからにしましょう。あるいは、解毒剤を用意してからにしましょう。

[「らしくない」話]
私のお気に入りブログ「M17星雲の光と影」から。
「自分らしく」生きるとはどういうことなのか、についての考察。

当然、人も人の外形だ。そして、その外形によって個体を識別する時には、さまざまなレベルのパターンを意識し、そのパターンの偏差や変異に着目する。そのパターン認識が裏切られた時、人は「あの人らしくないなあ」とつぶやく。こちらがあらかじめ用意していたパターンから逸脱した場合には、「らしくない」ということになる。

「自分らしい生き方」とは、他人が自分をどう見ているか、それをよく観察し、外形をそれに合わせることである。自分を他人の目に応じて固定することである。けっして自分を形のないものに向かって解放することではない。

[探すな決めろ - 書評 - 自分探しが止まらない]
人気Blog「404 Not Found」から、逆に解毒剤にならない/参考にならないアドバイス。

それでは、なぜ著者も含め自分探しが止まらない人々はそれを止められないのか。

自分を決めるのが、怖いからだ。

しかし、今やそういった制約はほとんど存在しない。存在しない代わりに、かつては正にしろ逆にしろ他者に教えられ、決めて来た自分を、自分で教え、決めなければならなくなってしまった。世の中を清潔に平等にしていった結果、そこは「ドラゴンボール」の「精神と時の部屋」のように何もない場所。これじゃスーパーサイヤ人でもなければ、自分で自分をおっかけまわすぐらいしかないのかも知れない。

だからこそ、あえて自分を決めてしまうのである。嘘でもいいから。確証がなくてもいいから。

「自分を決めるのが、怖いからだ」というところまでの分析は正しいのに、これも処方を間違っているとしか思えない。 「なぜ怖いのか」を単に「他人に笑われたくない怖さ」としかとらえていない、底の浅い分析。
ほかのエントリ(例えば [自己責任から自己権利へ] )を読んでもわかるように、「ロスジェネ」世代の就労環境の悪さに対して「なぜそんな会社を辞めないんだ、転職しろ、会社に勤めるのは権利だ」といいつつ、同時に [私はこうしてクビを切りました] で能力の低い人を辞めさせた話をしている。怖がるなという方が無理でしょう。
[「非集中化した私」と「自分探Sier」の葛藤]
アンカテ(Uncategorizable Blog)より。

この本は、表面的に見ると、上の分類で言えばサーベイに見える。

そこに着目すると、ちょっとひねくれた表現方法を取っているが、むしろこれは典型的な文学である。

なるほど。文学作品だと思えば、この毒も、処方箋なく読者を突き放すところも、評価を高める要素に見えてきます。
[内田 樹 『下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち』]
やっぱりこの本でしょう。あわせて、[内田 樹 『先生はえらい』] も読んでおきたいですね。
結論だけ要約すると「いくら探しても自分の中に自分は見つからない」し「働くということはしたくてすることではなく、しなければならないもの」。

おわりに

私の観念的な処方箋は、内田さんの本にもよく登場するジャック・ラカンの言葉「すべての欲望は他人の欲望である」の意味をよーく考えて、上のM17星雲の光と影のエントリをじっくりと読んでみること。 それから、これも内田本に出てくる「なんでも自己決定フェティシズム」という言葉をゆっくりと噛み締めること。

結局、自分探しは目的ではなくて、「幸せ」になるための手段なのだから、自分探しをしなくても幸せになる(幸せだと感じられる)方法を探すべきなのだ。
自分探しという方法は出口のない泥沼。答えのない問題。目的と手段を間違えて、さらに間違った手段にしがみついている限り、絶対にぜったいに幸せにはなれないんだから。

Amazon.co.jp: 『自分探しが止まらない (ソフトバンク新書 64)』

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