[書評] 赤坂 真理 /『モテたい理由』
赤坂 真理 / 『モテたい理由 男の受難・女の業』 / 2007-12-19 / 講談社現代新書 / B
はじめに
個別の議論については「鋭いなぁ」と感心することしきりなのだけど、全体としては首をひねりながら読んで、読み終わってもやっぱりすとんと納得できないもやもやが残る、そういう作品でした。
何とかそのもやもやが晴れてきたので、それをまとめてみました。
赤坂真理のファンではない人がこの『モテたい理由』を読んで理解できなかったり嫌いになりそうになったときに、どう読んだらいいのかのヒントを提供できるように書いてみます。
前半には私個人の意見を、後半に他の方のblogからこれはと思われる感想や書評を取り上げてみます。
結論を先に言ってしまうと、この本は「モテ」を取り上げてはいますがモテや男女論は主題ではないのです。 テーマは、これまでの赤坂真理の小説と同じく「生きにくさ」「閉塞感」なのです。 モテはその原因のひとつとして取り上げられている素材(手段)であって、テーマ(目的)ではないのです。
男女論
本書は「モテる」という切り口から男女論を展開して、男性/女性の価値感の違い、そこから生まれるすれ違い、女性誌が描く女性像人生像の貧しさおかしさを指摘しています。
キラリと光る言葉がちりばめられています。
「男は対象を、女は関係を重視する」とか「男は一点集中、女はマルチタスク」とか、モテについての定義
モテとは、関係性(特に異性との)において優位に立つことである。(p.29)とか、「女の鏡像、その名はオタク」(p.48)というフレーズでオタクの「萌え」とモテ服モテ髪モテアイテムとは同じロジックで駆動しているじゃんと指摘してみたり。
「モテ」を離れてもいい言葉がありますよ。
それは私に「たましいのかたち」ということを思わせる。
人には生まれ持ったかたちがある。三角形は四角形に比べて、何かが欠けているわけではない。(p.188)
本書の捉え方・接し方
ただ、「エッセイ」というフォーマットで提示されていれば素直に笑ったりうなずいたりできるのですが、「新書」というフォーマットが邪魔します。
新書というと学者なり第一線で活躍している人が一般人向けにわかりやすく(ただし科学的な手続きに則って)解説する、というスタイルが一般的です。
一方、本書は「高級/高尚なおしゃべり」です。
話があっちこっち飛んだり、断定する根拠は「女として私もわかる」とか「知り合いの男性に聞いてみたところ」であったりします。
「新書」というフォーマットにまどわされるのではなく、これは小説家赤坂真理の新しい「作品」だと思って読むべきですね。(あとで紹介する「名古屋ではたらく契約社員のBLOG」さんのアイデアです。)
本書が描いているもの
キーワードは、「生きづらさの遠因」(p.218)でした。
これは作家赤坂真理の過去の作品を読んでいないとピンとこないかと思います。
赤坂真理は文壇に登場した当時、「J文学の旗手」と言われていたようです(そのころにはまだ赤坂真理とは出会っていなかった私は知りませんでしたが)。
その「J文学」とはなんぞや。
東浩紀(hazuma)の言葉が短いながらも、そして本書の書かれた文脈に照らしても、もっとも的確だと思われるので引用しておきます。
渦状言論 2005年03月05日 2つのリアリズム
そこで求められていたのは、伝統的な「文学」から遠く離れた 20代、30代の消費者が共感できる、新しい「リアル」を写し取る新しい小説技法です。つまりは、J文学の本質とは、消費社会化された日本を舞台にした、リアリズムの復興運動だったわけです。消費社会に巻き込まれること。リアリズム。これは確かに本書『モテたい理由』の通奏低音になっています。
そして赤坂真理の作品が描いていたのは「生きづらい」「息苦しい(=生き苦しい)」と感じている若い女性の閉塞感でした。
リストカットをした時だけ生きていることが実感できる女の子の物語。
長距離トラックの運転手から露骨に身体を求められることで自分が生き物であり女である実感を取り戻せる物語。
私が赤坂真理の小説に激しく打たれたのは「膜/幕のようなものに包み込まれる息苦しさを突き破る何か」のイメージでした。
カミソリ。入れ墨。歯医者のドリル。セックス(ペニス)。疾走する長距離トラック。
切る。破る。刺す。裂く。
本書が取り上げている「包囲」について、著者の言葉からいくつか引用してみます。
講談社BOOK倶楽部−本|赤坂真理 「関係性がすべての時代」より
※元は『本』という講談社のPR雑誌の2008年1月号に書いた文章だと思われます。
『モテたい理由』(講談社現代新書)という本を書いた。
モテ、モテ、モテ、と昨今強迫神経症のように言われているが、「人々がなぜモテたいか?」という本では、ない。人々の多くは「モテたい」と思う前に「モテ強迫」に包囲されたからだ。私も含め。(中略) これだけ人々が「モテ」を考えさせられるからには、そのことの理由と歴史的必然があるはずだ。その驚愕の真実は!
本書より。
私が今のマスメディア状況を見て思うのは「包囲戦」のようだということだ。 自分を脅かすものに「直面」するのであれば、対抗することも、逃げることも迂回ルートを考えることもできるだろう。 けれど「包囲」はどうしようもなく人を無力にする。(中略) 圧倒的な物量で「包囲」されたときは、闘うことも逃げることもできない。 無力にへたりこむ、それだけなのでは。(p.206-207)
そしてこの作品で赤坂真理は「モテ」という強迫からの包囲を破るための「ことば」を読者に提供しようとしているのです。
小説として、比喩として、イメージとして、ではなく、もっと直接的に包囲しているものの正体を暴くことによって。
ざっくり、乱暴に、本書が訴えていることの要約をするとこんな感じでしょうか。
- 女性誌が描いている「望ましい女性像」には無理がある。
- 幸せな家庭。社会的な成功。経済的な成功。その全てを手に入れなさいと言われ、そんなのできないと思うことが閉塞感や息苦しさの原因である。
- キャリアウーマン向けの雑誌が描いているのが、女性自身の成功である。
- OL向けの雑誌が描いているのが、結婚によってそれを手に入れるためのモテや愛されである。
- 要するに:マスメディアによって提示される幸せを疑いなさい。
- さらにもうひとつ、女性に消費させようとか、女性的な観点をつかってマーケティングすることでもっと消費させようとする市場の思惑によってもがんじがらめにされている。
- 経済原理、市場原理には誰も反論できないから。(=アメリカ)
- もうひとつ、誰も反論できないのが「平和が大切、戦争は悪」という言説。(戦争)
- つまり:誰も反論できない絶対正しいと思われていることを疑え。
これは著者というよりは編集の仕事を責めたいですね。
他の方の感想や書評にコメント
404 Blog Not Found: 男女論の最高峰 - 書評 - モテたい理由
本書「モテたい理由」は、副題に「男の受難・女の業」とあるように、男女論である。本書は男女論ではない、と思うのです。
Sub specie aeterni 松下邦彦のBLOG: 「モテたい理由 男の受難・女の業」(赤坂真理著、講談社現代新書)
本書は、男女論と戦後日本論という2つのテーマが接ぎ木されている。(中略)コンパクトでポイントを押さえた要約です。 単に男女論だけではなくて、もうひとつ、著者赤坂真理がこだわっていた戦争、戦後日本論という部分にきちんと注目されています。
軽妙・的確な男女論と屈託に満ちた戦後日本論=自分史。不思議な読後感。けれども、印象的。
名古屋ではたらく契約社員のBLOG(ブログ) 第2章 〜風雲正社員編: 「モテたい理由」
この言葉がなかったら、この記事の着想にはいたりませんでした。ありがとうございます。J文学(死語。あれはいったい何だったんだ?)から10年、 ついにエースがデビュー作を上回る怪作をドロップしてきました。
新書(広義の社会科学)としては疑問が残る部分が多いものの、 文学作品としては間違いなく絶品。今年の文芸書ナンバーワンでしょう。
陽のあたらないところで: 【新書】『モテたい理由』赤坂真理著
この作品は評価が非常に難しい。この言葉に触発されて「本書をどう読むか」というスタンスの記事にしました。 いかがでしょうか。
各論としては面白い指摘があったり考えさせるところがあったりで満足度の高い作品ですが、全体としてはいきなり訳の分からない文脈で筆者が語りだしたりして辟易する部分が目につく作品。
(中略) 逆に、良くないと思う点について。
これは脈絡も無く話題が飛ぶところにつきます。(中略)
気楽に手にとった作品で、かつ、筆者に特別の思い入れのない読者にとって作品のテーマの本筋からズレた話を読まされるのは苦痛の他のなにものでもありません。
[本]「男の受難、女の業」という"アングル"にやっぱり反吐を吐け「モテたい理由」
これを読むときにまず最初にきをつけたほうがいいところは、前半部分についてはその通りだと思いますが、後半はちょっと保留が必要だと思います。
これは女性誌全体を俯瞰した客観的な評論ではなく著者である赤坂真理さんがある特定の女性誌の一群を「どうおもったか」というところによるところが大きい本です。(中略)
ふつうに女性誌をよみながら「エビちゃんシアター、おもしろいけどオーバーだよねえ(笑)」と笑い飛ばす女性がいたらこうはおもうでしょうか。
(みんな全てを真に受けて目の色を変えてプランタン銀座とかに走る人たちしかいないのだったら世界の広さを感じるとと同時にあやまるほかないのですが)
記事の内容(この髪型にすればモテる)を真に受ける人はいないと思いますが、記事のメッセージ(モテることが何よりも大切である)を真に受ける人はたくさんいます。
さらに、記事を笑い飛ばせない人、がいるのです。
そういう人は、例えば「どう、最近調子いい?」と聞かれたときに、本当に最近の私の調子はどうだろうかと考えてしまいます。「チョー最悪〜」と笑ってかえせない人がいます。 まあ、私がそうだったんですけど。
そういう人(が感じる息苦しさ)に向けて、本書が書かれたのだと思っています。
kyoushoublog | 「モテたい理由」赤坂真理著
著者赤坂真理が「エピソード」としてとりあげた面白おかしい事例に惑わされることなく、本書の全体像をきちんと見抜いていると感じました。例えば次のようなことば。
現在の日本社会を覆う女性という物語は端的に言うとモテ→愛され→結婚→出産というキーワードを通してその転換点ごとに他者に良くなったと承認してもらうような関係性を重視する物語だ。そして最後の一文。
PS.社会との繋がりという広がりを得たように見える、赤坂真理の次回作が楽しみだ。たしかに、これまでの赤坂作品は「膜/殻を破る」ことに主眼があり、その後どこへつながるのか、については描かれていなかったと思います。
個人的には(まだ)広がりを得たようには読めなかったのですが、一歩踏み込んでいる(踏み出した)んじゃないのか、という点には同意します。私も次回作が楽しみになってきました。
Amazon.co.jp: 『モテたい理由 (講談社現代新書)』
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コメント
すごくよくわかった。
Thanks.
投稿: | 2008/01/07 21:20
山さん,
はじめまして、さもんと申します。
トラックバックいただきありがとうございます。
この記事を読ませていただいて赤坂真理さんがどういう人なのかが少しはわかった気がします。
本は読むんですが、筆者について調べたりすることがないので裏の背景が読み取れないんですよね。
また、他の記事も参考にさせていただきます。
投稿: さもん | 2008/01/07 22:21
ななしさん(お名前欄に記入がないので失礼します)
短くて、でも励みになるコメントありがとうございます。
さもんさん、いえいえ、さもんさんに刺激されて書いた側面もあるので、「少しわかった気がする」というというお言葉を嬉しく思います。ちなみに赤坂真理のことを知っていたのは、たまたま私が前からのファンだっただけのことです。普段はそんなことしません。
投稿: ほんのしおり | 2008/01/07 22:29
コメントありがとうございました。そして、再読したわけではないですが、”閉塞感”について考えてみました...
まだ書けるようなコメントはできませんが、まず”小説家赤坂真理”の小説を読んでみようと思います。
投稿: 山崎真司j | 2008/04/07 21:37
古い記事へのコメント投稿となり、すみません。
どうしてもお礼を言わせていただきたくて、コメントさせていただきました。
この正月休みで手に取り、一度通して読んだのですが、どうにもこうにも作者の論点がスッキリ入ってこなくて理解できないままになってしまうところでした。
おっしゃっているように、各論はわかるのですが、総論として、この人は何を結局論証したいのだろうと、悶々としていました。
出版から時間がたっている本だったため、「モテ」や「男女論」の本ではないというのは知っていたのですが、新書という体裁に惑わされていました…。また、手に取った時には本の帯(『もう疲れたよ・・・でも、止まれない。』)がなかったのも、理解を妨げた理由かと思っています。
「膜/幕のようなものに包み込まれる息苦しさを突き破る何か」を心にとめながら、もう一度読んでみたいと思います。
投稿: 清美 | 2009/02/03 12:55
清美さん
コメントありがとうございました。
このエントリを書いた甲斐があったというものです。
すごく大切なことを言っているようなんだけど、つかもうとするとすり抜けてしまう、そんないらだちが少しでも軽減されるといいなと思います。
投稿: ほんのしおり | 2009/02/04 00:42